銀座の鐘

試練を通して受け取る祝福

説教集

更新日：2022年07月02日

2022年7月3日(日)聖霊降臨後第4主日　主日礼拝(家庭礼拝)　牧師　髙橋　潤

創世記27章18~29節

　本日の聖書の御言葉は、アブラハムの息子であるイサクの家族の物語です。イサクと妻リベカには、なかなか子どもが与えられなかったので、イサクは妻のために主に祈りました。主はイサクの祈りを聞き入れ、リベカは双子を身ごもりました。創世記25章23節には、不思議なことが記されています。リベカがお腹の中の子供たちが押し合うので私はどうなるのでしょうか、と主に尋ねたときの主なる神のリベカへの返事です。
23主は彼女に言われた。「二つの国民があなたの胎内に宿っており二つの民があなたの腹の内で分かれ争っている。一つの民が他の民より強くなり兄が弟に仕えるようになる。」
　双子が生まれるとき、先に出てきた子は全身毛皮の衣のようであってエサウと名付けられました。その後で弟が兄のかかとをつかんで出てきてヤコブと名付けられました。双子の兄弟は、生まれる前から「二つの国民」であり、「兄が弟に仕えるようになる」と主なる神から言われていたのです。
　双子の兄弟は成長し、エサウは狩人になり、ヤコブは穏やかな人で天幕の周りで働く人になりました。父イサクは兄エサウを愛し、母リベカは弟ヤコブを愛しました。
　ある日のこと、ヤコブが煮物を料理していると、狩人のエサウが疲れ切って野原から帰ってきました。エサウはヤコブに食べ物を求めました。そこでヤコブは、エサウに「長子の権」を譲って下さいと頼みます。エサウは「もう死にそうだ、長子の権などどうでもいい」と答えます。ヤコブは「では今すぐ誓って下さい」といい、エサウは誓って、長子の権をヤコブに譲りました。エサウは長子の権を軽んじたと聖書は記しています。
　本日の創世記27章には「祝福をだましとるヤコブ」と見出しが記されています。父イサクは年を取り目がかすんで見えなくなっていました。イサクはいつ死ぬか分からないので、死ぬ前にエサウがとってきた獲物で大好きな料理を作ってもってきてほしい、死ぬ前にそれを食べてからエサウに「祝福」を与えたいと言いました。妻リベカは二人の会話を聞いていて、エサウが狩りに出かけた隙に、ヤコブをエサウであるとだまして、イサクから祝福をだまし取る策略を練りました。ヤコブは母リベカに、もしだましたことがばれてしまったら、祝福ではなく呪いを受けることになります、と尻込みします。しかし、母リベカはいいます。13節「わたしの子よ。そのときにはお母さんがその呪いを引き受けます。ただ、わたしの言うとおりに、行って取って来なさい」
　ヤコブは目の見えない父イサクに対して「長男のエサウです。」といって、祝福を与えてくださいと伝えます。父は「近寄りなさい。おまえがエサウかどうか確かめたい」と言います。ヤコブがイサクに近寄ると、イサクはヤコブに触り「声はヤコブの声だが、腕はエサウの腕のように毛深くなっていたので見破ることが出来なかった。」28節から29節。
　このようにして、父イサクをだましてリベカとヤコブは祝福を奪い取りました。イサクから祝福をだまし取ったヤコブは、案の定兄エサウから憎まれました。エサウの「殺してやる」と叫ぶ声をリベカは聞き、ヤコブを逃亡させました。父からの祝福をだまし取ったヤコブは、逃亡生活をおくり、兄エサウとの和解の日までつらく長い人生の旅に出ることになりました。
　イサクがヤコブに与えた祝福は、同じようにエサウにも与えるということが出来ないものでした。イサクは、双子の兄弟に祝福を半分ずつ分けることもできません。父イサクがだまされてヤコブを祝福したことは取り返しのつかないことなのです。父が跡継ぎに託す目に見えない分けることが出来ない遺産のようなものです。イサクがヤコブを祝福したことは決定的なことになりました。しかし、長子の権を兄から譲り受けたヤコブは跡継ぎとして父イサクの近くにいることができず、逃亡しなければならなくなったということ、祝福をだまし取ることによって兄弟がまさに二つの国民として腹の中での押し合いを、地上において続けることになりました。
　聖書はこの祝福をだまし取るリベカとヤコブを通して私たちに何を伝えているのでしょうか。イサクの祝福はどんなことをしてでも、たとえだまし取ってでも獲得するべきなのだと教えているのでしょうか。リベカの策略を賞賛しているのでしょうか。神の御心はどこに示されていいるのでしょうか。
　アブラハムの子であるイサクは、エサウを愛し、エサウに祝福を与えたいとの願いを実現することが出来ませんでした。イサクが妻リベカともっと真剣に話し合い、長子の権はヤコブに譲ったのだから、祝福もヤコブにという合意が出来ていればこんなことにならなかったのにと思われるかもしれません。しかし現実は、イサクは、妻リベカの入れ知恵で弟息子ヤコブにだまされ、泣き叫ぶエサウを前にして、ただ「今となってはお前のために何もしてあげられない」と伝えることしか出来ない、無力な父でしかありませんでした。
　リベカは愛するヤコブのために祝福をもぎ取ることは出来ましたが、後先を考えていなかった行動としか思えず、愛するヤコブを命の危険にさらすことになりました。リベカは危険を察して、ヤコブを逃亡させることしか出来ませんでした。ヤコブは逃亡生活を通して、兄の復習を恐れながら生活することになりました。
　イサクの家族の悲劇が伝えられています。私たちがよく聞く、遺産相続を巡る問題を見るような悲劇が、族長であるイサクからヤコブへの信仰継承のただ中で起こったのです。
　聖書はこの物語を通して、私たちに伝えていることは、神の遺産を継承する際に、イサクの思い、リベカの思いの食い違いの中で悲劇は起こるのだということではないでしょうか。家族の中にこそ悲劇が起こることを伝えているのではないでしょうか。しかし、悲劇の中でも、神の祝福が目に見えない力を発揮して祝福を保証することを伝えていると思います。神の祝福を巡り、人間の思惑が錯綜しています。神の祝福は、決して人間の思惑通りにはならないことを教えています。人間の思惑が強くあればあるほど、神の祝福をもちながら苦しむ姿が描かれています。
　私たちは神からの祝福を信仰が与えられることによって受け取っています。信仰を与えられて生きるということは、ヤコブがイサクから祝福をもぎ取った後苦労したように、試練を生きる事なのです。信仰生活は全ての試練から解放される保証ではないのです。家族が円満で兄弟の仲が良いことは大切ですが、そうではない現実が少なくないのです。親子、兄弟、姉妹、親戚の間の難しい関係を私たちは知っています。
　しかし、そこで大切な事は、ヤコブが逃亡生活の中でももぎ取った祝福が試練を乗り越える道を歩き続けるとき、神の眼差しによって、見つめられていることを受け止めたいと思います。ヤコブは逃亡生活の間も試練によって鍛えられます。母リベカの言いなりになっていたあのヤコブが、逃亡生活において、今度は何度もだまされながらも、結婚、そして多くの子を与えられ、とうとう兄エサウとの再会へ向かうほど成長します。そして創世記35章では、神からベテルの町で祭壇を造りなさいと御声を聞くのです。
　聖書には「アブラハム、イサク、ヤコブの神」という言葉が何度も登場します。彼らは神の目から英雄と評価されているのではありません。そうではなく、神に試され、神の訓練を受け、神に鍛えられ、神と共に試練を歩み通した一人一人なのです。
　私たちの試練が問題なのではなく、神の祝福を中心に試練が与えられていることに気付きたいのです。使徒パウロは試練を通して与えられた御言葉を記しています。
「このキリストのお陰で、今の恵みに信仰によって導き入れられ、神の栄光にあずかる希望を誇りにしています。3 そればかりでなく、苦難をも誇りとします。わたしたちは知っているのです、苦難は忍耐を、4 忍耐は練達を、練達は希望を生むということを。5 希望はわたしたちを欺くことがありません。わたしたちに与えられた聖霊によって、神の愛がわたしたちの心に注がれているからです。6 実にキリストは、わたしたちがまだ弱かったころ、定められた時に、不信心な者のために死んでくださった。」ローマの信徒への手紙5章3~6節
　試練の中で神の愛が注がれていること、神の祝福を中心とした神の導きによって鍛えられること、感謝して歩みましょう。

祈り 　
　天の父なる神さま。家族の対立によって試練が与えられたヤコブの姿を聖書を通してお聞きしました。弱く惨めなヤコブを鍛え、導き、見守り続けてくださる神の深い憐れみに圧倒されます。私たちが聖霊によって見つめられていることを覚え続け、主の御前に試練を乗り越えることができますようにお導きください。 主イエス・キリストの御名によって祈ります。 アーメン